ひきこもりから、社会にあそぶ

常識を壊して、常識にあそぶ、常識を創る

赦す、完全性を備えた幸福〜敗北に敗北を重ねた自分を受け容れる

 水上温泉郷、地上の極楽より百鬼夜行に昼行する東京に出立ち早1ヶ月。高い志のみを携帯し、空手で闘わんと奮起し、つかれ、引きこもった激しい1ヶ月だった。

 ひたすらに幸せに生きるボクサーとして、私が立ち上がらんと上京し、それまでの間、過去に知りもせずに嫌悪した売春婦の苦楽と、女性の気も知らずに淫欲に溺れた罪を清算せんと、後生大事に守ってきた童貞を捧げる覚悟で売専に身をまかそうと、嫌悪の中の嫌悪を超えて挑戦し、そのための葛藤に、恋に焦がれて、愛に飢え、淋しさに憔悴し、病に倒れて気が折れて、ついには一歩も踏み出せなくなった。その堕落を許せずに、自らに強く鞭打ち、戒を立て、不撓不屈を課して折れ、折れて折れては、荒みゆき、その荒みをよくよく糾弾道は失せ、逃げ場なくなく咽び泣く。

 忘れていた。ぼくは唯のボクサーになりにきたのではなかった。格闘家、それを応援し熱狂するファンの人々、彼らに幸せに生きてほしいがために上京してきたのに、ぼくは初志をわすれて、眼目の課題に躍起になりすぎていた。苦しいはずだ、暗いはずだ。時節を待たねばならぬ功を、今よ今よと焦りに焦り、後ろ暗き過去を直視せぬままに意地を張り、俺には成せるし成さねばならぬと、使命感に心身が取り残されていた。

 もうやめよう。赦そう。一切の突き動かさんと画策する、実存意識を放棄して、今夢破れた自分を、堕落に甘んずる自分を、まるっとまるごとうけいれる。

 足を交互に、ハンバーガーとビールを買う。昼にまだ届かぬ時間だけれども。引きこもる中、食を抜いて感覚を研ぎ澄ませ、自らの成しあることに注力せんと、用意を怠らなかった。けど、やめる、やめた。そんな自分をも愛しながら、ハンバーガーを手にとり齧り、ビールを腑に流す。天を仰いだよ、実際に。静かでやわらかく、尊くてかけがいのない、まるで川のほとりに呼ばれて座り、清流に身をとかされるような、完全性を備えた幸福。不足がなくて充実した、あの感覚。タバコ臭く、騒音鳴り止まぬ、南京虫とダニの温床の一畳間で、これほどまでに満たされるとは、思いもよらなかった。

 己の腹はよく知っている。また一歩一歩、丁寧に大切に味わいながら、求めてゆこう。

 ここに行き止まったことを、行き詰まったことを感謝したい。

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